オフサイドの概念を覆す「ベンゲル・ルール」:2026年W杯導入に向けた議論の現在地

現在、国際サッカー評議会(IFAB)とFIFAの間で、オフサイド規定の抜本的な変更、通称「ベンゲル・ルール」の導入を巡る議論が再燃しています。FIFAの国際サッカー開発部門責任者であるアーセン・ベンゲル氏が提唱したこのルールは、「攻撃側に有利」な試合展開を作ることを目的としていますが、守備側の戦術や審判の判定に多大な影響を及ぼすとして、欧州の主要リーグやサッカー協会からは強い慎重論が出ています。


ベンゲル・ルールとは:現行規定との決定的な違い

「ベンゲル・ルール」の核心は、オフサイドの定義を「攻撃側の選手の身体の『一部』でも相手ディフェンダーより前に出ていればオフサイド」から、「身体の『全部』が完全に出ていない限りオンサイド」へと逆転させる点にあります。

現行ルールでは、得点に関与できる部位(手や腕を除く)が数cmでもディフェンダーより前にあればビデオ・アシスタント・レフェリー(VAR)によって得点が取り消されますが、新ルールでは、身体のどこか(例:かかと)がディフェンダーと重なっていればオンサイドと見なされます。これにより、攻撃側の優位性が大幅に増し、得点機会が増加することが期待されています。


欧州勢の反発:UEFAとイングランドFAが懸念する「戦術の崩壊」

この革新的な提案に対し、UEFA(欧州サッカー連盟)のアレクサンダー・チェフェリン会長や、イングランドのFA(サッカー協会)は否定的な見解を維持しています。主な懸念点は、守備側のライン・ディフェンスが実質的に不可能になることです。

特に、イングランドメディアは、このルールが導入された場合、ディフェンダーはオフサイドトラップを仕掛けるリスクを回避するため、極端な守備的陣形(リトリート)を強いられる可能性を指摘しています。その結果、中盤のスペースが消え、試合の質が低下するとの批判も出ています。


試験導入の結果と2026年W杯への見通し

このルールはすでにスウェーデン、イタリア、オランダの下部組織や一部のリーグで試験的に導入されています。FIFAの内部報告によれば、試験導入された試合では、攻撃的なプレーの回数が増え、VARによる判定時間も短縮される傾向にあるとされています。

しかし、2026年W杯での全面導入については、2026年初頭に開催されるIFABの年次総会が鍵を握っています。FIFAは「スペクタクルなサッカー」を求めて導入を推進したい考えですが、トップレベルのプロリーグでの実績不足を理由に、現時点では2026年大会での採用は時期尚早であるとの見方が有力です。


まとめと展望

「ベンゲル・ルール」は、サッカーの歴史において最も劇的なルール変更の一つとなる可能性があります。FIFAはファンのエンゲージメント向上とゴール数の増加を狙っていますが、競技の公平性や戦術的バランスを重視する欧州勢との溝は依然として深いままです。

2026年W杯を目前に控え、IFABが「試験継続」という慎重な判断を下すのか、あるいは「歴史的な変更」に踏み切るのか。3月に予定されている年次総会の決定が、北米大会のサッカーそのものの形を決定づけることになりそうです。

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